国立感染症研究所 感染症週報第41号 注目すべき感染症として梅毒が取り上げられました。
2021.11.05
梅毒は過去の性病ではありません。梅毒患者の報告数は1948年以降、小さな流行はありながらも確実に減少していました。今から20年ほど前は年間600例を下回る報告数で横ばいとなっていましたが2010年の年間報告数621例から一貫して増加を続け、2018年には10倍以上の7007例に達しニュースなどでも話題となりました。その後、減少傾向がみられましたが、2021年は41週現在で2018年の同時期よりも報告数が多くなっており注意が必要です。
梅毒は梅毒トレポネーマという病原体が原因の感染症で、主に性交渉により感染する性病です。梅毒トレポネーマが皮膚や粘膜に侵入すると、その侵入箇所に、潜伏期(数週間程度)の後、初期症状として軟骨ぐらいの硬さのしこりができ、やがてその中心部分が潰瘍になります。多くの症例で痛みを伴わないです。この段階をⅠ期顕症梅毒と呼びます。Ⅰ期の症状は無治療でも数週間で消退するケースが多いです。その後、数週間から数か月が経過すると梅毒トレポネーマが血流にのって運ばれて、典型的な症例では全身の皮膚や粘膜に発疹が生じます。この段階をⅡ期顕症梅毒と呼びます。Ⅱ期の段階でも中枢神経や眼、内蔵など、全身の臓器に様々な症状を呈する可能性があります。Ⅱ期に現れる皮膚や粘膜の症状は無治療でも多くの場合、数週間から数か月で消退します。そのまま無治療のケースでは、一定数が数年から数十年後にゴム腫と呼ばれるゴムのような腫瘍ができたり、心臓から出る太い血管に障害をきたしたりといった重篤な症状に陥ります。
梅毒は性病としての患者数が多いことなどから公衆衛生において重点的に対策を取るべき疾患として位置づけられています。不特定多数との性交渉は危険因子であり、適切にコンドームを使用しないことはリスクを高める要因となります。様々な部位に病変が生じることからオーラルセックスやアナルセックスなど、膣性交以外でも感染する可能性があります。梅毒の症状である陰部潰瘍はHIVなどの他の性病の感染の危険を高める点も注意が必要です。
心当たりや疑わしい症状など少しでも不安がある場合には積極的に検査を受けることで自分を、そして大切なパートナーを守ることにつながります。